ある森を、おじいさんが歩いていました。
おじいさんは、幻のあまやどりを一目見ようと、
長く旅をしているのですが、なかなか巡りあえません。
よちよちと歩いていると、おじいさんは
一匹の年老いた鳥に出会いました。
「物知りそうな鳥さんよ。
わしゃ、あまやどりという珍しい鳥を探しているんだが、
どこにいるか知らんかね」
「いかにも、私は物知りな鳥ですが、
はて?あまやどり・・・。
どこかで、聞いたことがあるような、無いような。
思い出すので、ちょっと時間をくださいな」
おじいさんは、鳥が思い出すまで待つことにしました。
しかし、5分たっても、10分たっても、
鳥は唸っているばかり。
「んー。私は世界中の鳥を知っているはずなんですが。
んー。思い出せそうな、思い出せなさそうな」
ついにおじいさんは、しびれを切らせてしまいました。
「すまんが、他をあたることにするよ。
わしには時間がないんだ。
生きているうちにしか、あまやどりを見られないんでな」
「お役に立てず、すみません。お気をつけて」
おじいさんは、鳥と別れて旅を続けることにしました。
おじいさんがよちよちと歩いていると、
小さな街で、スーツ姿の男性に出会いました。
「頭の良さそうなお兄さんよ。
わしゃ、あまやどりを見るために旅をしているのだが、
どこかで見たことはないかね」
「あまやどりですか?この街ではもう見なくなりましたね。
あちこちのお店で、傘が売られるようになっちゃいましたからね」
「そうなのか。
あまやどりは、傘がないところでしか見られないのかね」
おじいさんが質問をし終わるころには、
スーツ姿の男性は随分と遠くまで進んでいました。
「まったく、せっかちな男じゃ」
おじいさんは、傘に話を聞くために旅を続けることにしました。
おじいさんがよちよちと歩いていると、
ベンチに置き忘れられた立派な傘を見つけました。
「立派な傘さんよ。
わしゃ、あまやどりに会いたくて旅をしているのだが、
傘があるところでは見られないというのは本当かね」
「そんなことないさ。
あまやどりは、せっかちな人間には縁のないものなのさ。
もし、見たいならここに座って待つといいよ」
「わしゃもう長くないから、急いで見たいのだが、
傘さんのいう通りに、ここで待ってみよう」
おじいさんは、ベンチに腰掛けて待つことにしました。
「まだかのう」
「まだまだ」
「まだかのう」
「まだだねぇ」
「まだかのう」
「もうすぐかも」
やがて、雨が降り始めたので、
おじいさんは、傘さんを開くことにしました。
「これはこれは、大きな傘じゃのう」
「えっへん。すごいだろ」
それは、何人も人が入りそうな大きな大きな傘でした。
そして、傘は誇らしそうに言いました。
「ほら、これがあまやどりだよ」
「どれどれ?」
おじいさんは、必死にまわりを見渡しますが、
どこにも鳥は見当たりません。
「わしには全然見えないぞ」
タッタッタッタッ。
そのとき、遠くからひとりの女の子が走ってきました。
傘を持っていなかったのでしょう、
雨にぬれて、びしょびしょです。
「おじいさん。
私もここで、あまやどりしてもいい?」
それを聞いて、おじいさんはびっくり。
「え?あまやどりだって?
いま、君はあまやどりと言ったのかい?」
「そうよ。あまやどり、知らないの?」
「そっか。」
「わしが、あまやどりだったんじゃ。」
それから、おじいさんと女の子は、
ふたりでお話をしたり、
しずかに雨の音を聞いたり、
ちょっと考えごとをしたり、
うたた寝をしたりしました。
ふたりとも、
ゆっくりと羽を休めることができました。
あまやどりって、いい時間だな、と
せっかちに生きてきたおじいさんは思いました。
やがて、雨がやんで、
空にはきれいな虹がかかりました。
おじいさんと女の子は、
傘さんにお礼を言って、
それぞれのお家に帰りました。
おしまい。
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